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東京高等裁判所 平成7年(ラ)638号 決定 1995年6月26日

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

申立費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は「『原決定を取り消す。間接強制決定を取り消す。』との裁判を求める。」というものであり、その理由の要旨は、本件間接強制決定は抗告人(債務者)らに対し相手方(債権者)に資料の閲覧謄写をさせることを命じる仮処分命令(以下「本件仮処分命令」という。)を債務名義とみなしてされたものであるところ、<1>本件仮処分命令には、審理不尽の違法がある上、被保全権利及び保全の必要性がないのにされた違法がある。<2>本件仮処分命令の対象とされている資料の一部は存在しない。<3>仮処分は暫定的なものであり、しかも抗告人らは本件仮処分命令に対し保全異議を申し立てている。それにもかかわらず右のような満足的仮処分の執行を認めることになると、将来被保全権利の存在が否定された場合の原状回復は不可能であるから、本件仮処分命令につき間接強制で履行を強制するのは不適当であり、少なくとも、保全異議についての判断がされるまでは、間接強制決定をすべきではない。<4>原決定には、抗告人らが答弁書及び疎明資料を提出したにもかかわらず十分な審理をせず、審理の終結についても抗告人らに通知しなかつたという、審理不尽の違法がある。<5>原決定は、抗告人らが債務を履行しない場合、一日につき各自一五万円の割合による金員を支払うことを命じているが、右金額はあまりにも高額であり、これを容認する根拠も資料もない。というものである。

二  当裁判所の判断

抗告の理由<1>及び<2>は、被保全権利及び保全の必要性を争つて本件仮処分命令に対する不服を主張するものに過ぎず、抗告の理由<3>もつまるところは同じ不服をいうに帰する。しかしながら、右のような理由は、仮処分命令自体に対する不服申立手続に従つて主張すべきものであり、仮処分命令を債務名義とする執行の申立てに関する執行裁判所の審査の対象となるものではないから、原決定に対する抗告の理由にもならない。

次に、抗告理由<4>についてみると、民事保全法五二条によりその例によるとされている民事執行法一七二条三項は、執行裁判所が間接強制の決定をするには、申立ての相手方を審尋しなければならないとしており、これは、執行の方法としての間接強制の決定をするに当たり、債務者に防御の機会を与えたものであるが、審尋によつて明らかにすべき事項は執行裁判所の審査の対象となる事項に限られるのは当然であり、主として、任意履行の意思の有無とか、履行確保のための金銭の額等を定めるについての相手方の意見、事情等を聞くためのものである。ところが、記録によれば、抗告人らが提出した答弁書記載の主張は、前記抗告理由<1>ないし<3>と同様、本件仮処分命令の被保全権利や保全の必要性を争う等、執行裁判所の審査の対象とならない事項を中心とするものであり、疎明資料もそれにそつたものに過ぎないことが認められる。したがつて、原裁判所が、更に抗告人らの意見を徴することなく原決定をしたことに、何らの違法もない。

最後に、抗告理由<5>は、履行確保のために原決定が定めた金額が過大であるというが、右金額は、執行裁判所が、義務の不履行により債権者が受ける損害の額のみならず、債務の性質、債務者の資力、不履行の状況等の諸般の事情を考慮し、「債務の履行を確保するために相当と認める」金額(民事執行法一七二条一項)として定めるものであつて、執行裁判所に広い裁量が与えられているというべきところ、原決定が定めた一日につき一五万円という金額は、本件仮処分命令が命じた作為の内容等に照らすと相当高額なものということはできるが、本件記録に顕れた抗告人(債務者)らの不履行の状況や抗告人らの本件への対応ぶりを勘案すると、右金額がそれほど不合理であるとはいえず、原裁判所の裁量の範囲を逸脱したものということはできない。

三  以上のとおり、本件抗告は、いずれも理由がないから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上谷 清 裁判官 田村洋三 裁判官 鈴木健太)

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